はじめに

どんな資格が必要か?

現在、アーユルヴェーダのサロンを開業するのには、どんな資格も必要ありません。アーユルヴェーダ学会では、いくつかの資格をもうけて認定試験を行っていますし、各アーユルヴェーダスクールでも独自の資格を発行していますが、どれも国家資格ではないのです。

アビヤンガをやってはいけない場合は?

さらに、そんな資格をもっている方でも、聞いてみると、驚くほど基礎的なことを知らない場合があり、心配になることがあります。私がアーユルヴェーダ学会の中級試験の試験官をした時には、アビヤンガをやってはいけない場合を聞かれて、正しく答えられない人がかなりいました。答えは、「アーマがある時、熱がある時、生理の時、食後すぐの時(消化不良の時)、妊娠中、出血性の病気がある時」です。
こうした基本さえ守れば、アーユルヴェーダの施術は技術的にも難しくなく、オイルを使うために、とても効果が高いので、コリや痛みを驚くほどラクにすることができます。家族や友達の間でお互いに施術できる人が増えるといいなあと思います。

アビヤンガをやっていい場合と、そうでない場合の見分け方が出来るようになる

アーユルヴェーダセラピストになるために、最低限の資格テストを作るとしたら、どんなことをわかっていることが必要でしょうか?
まず、第一に「アビヤンガをやっていい場合と、そうでない場合の見分け方が出来るようになる」、ということです。アーマが多い人の場合、オイルを使うと、体がリラックスするどころか、パンパンに硬くなってしまうことがあります。そういう場合には、ガルシャナというドライマッサージで、まずアーマを燃やすことが必要になります。この技は痩身にも使えるので、ガルシャナを売り物にするサロンもありますが、たとえばピッタ体質で体に熱の要素が多い人の場合には、絹の手袋を使った摩擦によるガルシャナをすると、熱が高まって湿疹を起こしてしまうことがあります。こういう人には冷性の薬草の粉を使ってマッサージするのが正解です。こういう見分けが付くようになることが、まず第一の関門です。

発汗法の選択と食事指導の指導

発汗法の選択

オイルマッサージをしただけでは、汚れに対して洗剤をかけただけの状態と同じ…適切な発汗法の選択が必須

次に重要なのが、発汗法の選択です。オイルマッサージをしただけでは、汚れに対して洗剤をかけただけの状態と同じです。洗剤をかけてから擦って汚れを落とすのと同じように、体をあたためて発汗を促し循環をよくします。この時、金属のタワシで強く擦ると傷をつけてしまうのと同じように、強すぎる温度や長すぎる発汗時間などは、かえって体力を奪ってしまいます。ですから、繊細な人には繊細なように発汗法を選び、温度や時間を調節することが必要になります。たくさんの種類の施術が出来るのが良いサロンではなく、季節の変化をにらみながら、お客さんの体質、体調、症状などにあわせて、発汗法の強弱、長さなどを調節してくれるのが、本当のよいサロンなのです。

食事指導が出来る

アーユルヴェーダでは食事の間違いによって病気になる!と考えている

最後に、食事指導が出来るようになることです。食事の間違いによって病気になるとアーユルヴェーダでは考えています。ですから、症状の原因を見つけるためにも、同じことを繰り返さない予防のためにも、正しい食事法を理解し、指導できるようになっていることが重要です。

マッサージの手技はどうでも、まずは最初の三つ、「アビヤンガをやっていい場合と、そうでない場合の見分け方が出来るようになる」、「発汗法の選択」、「食事指導が出来る」、この三つが出来るようになったら、最初の資格をあげてもいいように思います。それは、家族や友達など、まちがってもゴメンで済ませてくれる人達の体にさわってお金を貰わずに施術を練習してもいいという資格です。少しお金をもらった方が緊張感があっていいという人もいますので、そこは人それぞれですが。では、そのためにはどんな勉強をしたらいいでしょうか?

どんな勉強が必要か?

「ドーシャ・ダートゥ・マラ・ビジュニャーヤ」と呼ばれる生理学の知識

まず第一のアビヤンガをやっていい場合とそうでない場合の見分け方が出来るようになるためには、「ドーシャ・ダートゥ・マラ・ビジュニャーヤ」と呼ばれる生理学の知識が必要です。その他にも、最低限の西洋医学的な常識も知っておく必要があります。たとえば激しい頭痛がする場合には、クモ膜下出血などの重篤な病気を疑うべきで、すぐに病院へ行くことを薦めることが重要です。

料理で勉強:料理をしながら火と水を上手に使う方法を学ぶのが上達の近道

第二の「発汗法の選択」ですが、これには本から得られる知識だけではなくて、実践的な観察力が必要になります。そのためにすすめられる勉強法が、料理をするということです。セラピストになりたい生徒さんには積極的に料理をするように薦めています。素材を蒸すのと、煮るのと、焼くのとでは、火の通りがどう違うのか?硬くなるのか?軟らかくなるのか?料理をしながら火と水を上手に使う方法を学ぶのが上達の近道だと思うのです。

料理研究家の方と一緒にインドへいった時、チキングニャという病気の後遺症で、痛みや疲れが抜けずに弱っている現地の方の治療をしたことがありました。料理研究家さんはタオルを使った発汗法のアシスタントをしてくれましたが、初日だけ指示を出すと、二日目からは、完璧なタイミングで熱のコントロールをして発汗法をたすけてくれました。彼女はアーユルヴェーダの施術の知識はありませんでしたが、料理研究家ならではの観察力で、火加減や水加減を完璧にこなしてくれました。こういう実践的な観察力も必要なのです。

最後の食事指導については、拙著「アーユルヴェーダ食事法 理論とレシピ」に基本的なことをまとめておきましたので、ご参照いただければと思います

アーユルヴェーダ食事法 理論とレシピ──食事で変わる心と体

アーユルヴェーダグッズ、ハーブ専門店 Santosha でも購入できます。

どんな道具が必要か

3000年も前にやっていたことを再現するのですから、きわめて原始的なものだけで出来るようになっている

見栄えさえ気にしなければ、アーユルヴェーダの施術をするために、特別な器具は全く必要ありません。原理さえ知っていれば、たいていはホームセンターにあるもので済ませることが出来ます。

数年前に、イタリアのお金持ちからE-チケットが送りつけられてきて、突然、ご家庭に施術に呼ばれたことがありました。その時私が日本からもっていったものは、オイル1本とシローダーラーの壺だけ。あとはすべて、その家にあるもので調達することができました。エステサロンのように高い機械は必要ありません。3000年も前にやっていたことを再現するのですから、きわめて原始的なものだけで出来るようになっています。

道具一式3万円でスタート

では、もしも最低の資金でアーユルヴェーダサロンをひらけと言われたら、いったいいくら必要でしょうか?考えてみました。メニューはゴマ油のアビヤンガ(オイルマッサージ)と、シローダーラーだけ。全く見た目にお金は使わず、効果だけを追求するとします。

部屋の家賃や光熱費などを考えず、発汗もお風呂に入ってもらうとすると、実質的に必要なのは、最低のマッサージベッドが2万円弱、あとは、ビニールのシート、オイルと薬草、タオル代などの消耗品くらいで、シローダーラーのポットなどは手作りで簡単に作れますから、全部で3万円もあれば、スタートすることが出来ます。ご家族や友人に施術する程度ならば、このくらいの準備で充分なのです。

ただし、見えないところでお金が必要になる……

しかし、見えないところで出ていくお金もあります。オイルを頻繁に使うと、どうしても排水管がつまるので、一年に一度は排水管の高圧洗浄をかけないといけませんから、2万円程度の予算を計上しておく必要があります。ちゃんとしたサロンにするなら、ガウンからタオルまで、それなりのものが必要ですから、お金をかけようと思ったら切りがありませんね。

いつれにせよ、こんな小資金ではじめることが出来ますので、まずはお金を稼ぐことを目的とせず、多くの方に施術させていただいて、いろんなカラダがあること、いろんな症状があることを学んでいくと、その経験が良いセラピストへの道につながってきます。

良いセラピストになるためには?

アーユルヴェーダ・セラピストの腕というのは、マッサージの技術ではない

実は、アーユルヴェーダの施術の技術は、どれもそんなに難しくはありません。 ちょっと勉強すれば誰でも基本はマスターできます。その技でお金をいただけるほど、気持ちよく、効率的に施術できるようになるためには、修練が必要ですが、家族や友人に施術する程度ならば手技は簡単に覚えることができます。

ですから、アーユルヴェーダ・セラピストの腕というのは、マッサージの技術ではないのです。 良いセラピストというのは、お客様の症状の原因と乱れているドーシャを見抜き、最適の施術法を考え、最適のオイル、最適の薬草を選び、どんな発汗法をどの程度の強さで、どのくらいの長さで行えばいいのか?それを計算できることこそが、セラピストの腕なのです。

そのためには、生理解剖から薬草学まで、膨大な勉強が必要になります。さらに、多くの人を観察した経験がモノを言いますので、タダでもいいから、多くの人の施術に関わることが必要になります。 そして、施術をしたら、必ずフィードバックを聞くことです。フィードバックを聞くことで、自分があっていたのか、間違っていたのかを知ることが出来ます。検証なしではただの自己満足に終わってしまいますので進歩がありません。

いい指導者につくこと

そして何よりも、いい指導者につくことです。私はインドの師匠サダナンダ先生に出会うことが出来たのが人生で最大のラッキーだと思っています。日本では日本アーユルヴェーダスクールのクリュシナUK先生や、大阪アーユルヴェーダスクールのイナムラヒロエ先生、シャルマ先生に教えていただくことができ、毎年来日して指導してくださったビーマバット先生や、たくさんの標本をもってきて実践的に教えてくださったシュリカント先生、ケララ独特のマッサージと診療を教えてくださったピライ先生など、多くの素晴らしい先生方に出会えたことで、毎年新しいことを教えていただき、患者さんの数だけ学びを重ねることが出来たのをありがたいと思っています。

しかし、教わったことは、自分で止めてはいけない。神様から借りているのと同じなので、新しい人達に教えて返していかなければいけないとも教わりました。と、いうわけで今年中に新しいセラピストコースをはじめようと思います。