体の中の火を燃やそう!アグニについて

アグニ神

芥川龍之介の小説に「アグニの神」という作品があります。国際色豊かな大正時代の上海にインド人の魔法使いのおばあさんが暗躍する話です。この中にアグニという名の火の神様が登場します。火を崇拝していた、古代インドのアーリア人達にとっては大切な主神のひとりで、神々への讃歌をまとめたリグ・ヴェーダでもインドラ神(帝釈天)についで多くの讃歌が捧げられている神様です。

実は、アーユルヴェーダでは、体の中でもこのアグニ神が働いていると考えます。口から取り込んだ食べ物を燃やしてエネルギーや体組織に変換していくのがアグニの役割です。つまり、消化と代謝の働きを司っているわけで、生化学的に言えば酵素のような役割です。

「アグニ」と生命のエッセンスである「オージャス」

体内には13種類のアグニがあると考えられていますが、その中核にあって一番大きな力をもっているのが、胃と十二指腸に存在するメインのアグニです。このアグニの火がうまく燃えていれば、食べたものが上手に消化されて吸収され、代謝に使われます。体液が出来、血が出来、肉が出来、脂肪が出来、骨が出来…という体組織の変換がうまく行われ、一番最後に生命のエッセンスであるオージャスが出てきます。オージャスが出てくれば人は幸福感にあふれ、免疫力があがり、健康に近づきます。つまり、アグニを健全にしておけば、いい体組織が出来て、オージャスも増えて心身ともに健全になれるというわけです。

治療にはアグニの力を健全にすることが大切

また、病気の時には、どんな治療の時にもアグニ=消化力を健全にすることが根本的に必要です。たとえば癌のような重篤な病気の場合でも、緑内障のように一部の臓器に限った病気でも、風邪のような軽い病気の場合でも、やるべきことはまず、消化力をたてること=アグニを健全にすることです。インドの病院で、緑内障の人に消化力を治すためのパンチャカルマ(浄化療法)を行っているのをみて不思議に思ったことがありましたが、目の細胞であれ、癌の腫瘍であれ、悪いところを治すためには、異常な細胞が増えている場所に、正常な細胞がとってかわってくれたらいいだけなので、代謝が正常に行われれば、自然治癒につながるのです。消化器で働くメインのアグニが正常になれば、13種類のすべてのアグニに力を与えていくので、消化力と代謝の力が正常になれば、目であれ皮膚であれ、正常に近づいていきます。ですから、アグニの力を健全にすることが何より大切なのです。

中距離弾道ミサイル「アグニ」

ちなみに、インドが開発した核弾頭の搭載も可能な中距離弾道ミサイルにも、アグニの名前がつけられています。英語で点火を意味するigniteという言葉の語源もagniと同じ。体内のアグニはおおいに燃えて欲しいものですが、ミサイルのアグニには点火されないように祈りたいですね。

アグニの力を落とすことの筆頭は食べ過ぎと、冷たいものの飲み食い、とストレス

さて、このアグニの力を落とすことの筆頭は食べ過ぎと、冷たいものの飲み食い、とストレスです。やけっぱちになって冷たいビールをガーッと飲みながらのヤケ食いなんていうのは、アグニを痛めつける最悪な状況です。さりとてストレスも多いし、おいしいものの誘惑も避けられないのが21世紀の我々の世界。どうしたらいいのか?アーユルヴェーダの知恵を紐解いてみましょう。