アーユルヴェーダ・パンチャカルマ体験談3

夕方4時になると、治療用のガウンに着替えて病院へ向かう。私の主治医はジョテイという大学を出たての若い女医さんだ。この病院では、治療はすべて医学部を卒業した医者が行い、トリー トメントのための専門のテクニシャン等はおかない。

全ての原則を理解している者がやらないと、小さな変化などを見逃してしまうからという理由だ。治療室ではビニールをしいた寝台の上でパンツ1つになって油まみれにされる。

まず、ゴマ油でマッサージを50分ほど。その後、シロダーラを15分。次に蒸気のサウナ箱に入り汗が出るまで20分ほどのスベダナ。それから、蜂蜜,塩、ダシャムーラ(十根)をいれた煎じ液でのバステイ(浣腸)だが、煎じ液でのバステイをするためには完全にお腹を空にする必要があるので、前の食事から最低4時間は経過していなければならない。そのため、12時までに昼食をとるようにと厳しく管理された。

ヴァマナ(催吐法)のための薬剤。10リットルくらいの薬草の煎じ液を飲んでは吐く。

ヴァマナの最中に、もう一杯薬草の煎液を飲むように指示されている。吐くことは出来るが飲むのが大変だ。

ヴァマナで体内の過剰なカパを吐き出すと、信じられないほどスッキリと軽くなる。喘息や皮膚病にも卓効。

ワゴリは時間に厳格

実は前回インドへ観光に来た時、あまりにも時計をもってくることが無意味だったので今回は腕時計すらしてこなかったのだが、ワゴリでは時間にはとても厳格だ。これも例の原則のひとつだ。バステイは朝と夕方しかしない、バマナは春しかしない。真珠のバスマは満月にしか作らない。ラクタモクシャナは火曜日にしかしない。こうした古典に書かれた原則は忠実に守る。朝には朝の効力、夕方には夕方の影響があるというのだ。確かにワゴリで朝日をあびて美しい平原を歩きまわり、午後には静寂を正しく味わい、美しい夕焼けを眺めて、夜は10時までに眠るという生活をしてみると、それだけで体に大きな違いが出るということは2~3日でわかった。実は、はるばるインドまで行ったのに観光もせず、入院だけというのは、バカンスがもったいないかな…とも、思っていたのだが、何もしないで自然や時間を味わいつくすということの意味を知ることができて、贅沢な時間を過ごせたと思う。

パンチャカルマの患者はここに入院する。真ん中に治療室があり、両側の宿泊室から患者が出入りできる

滞在する部屋は病院というより、ちょっとしたホテルのようでくつろげる。

食事は全てこの土地で出来た無農薬の食材

治療が終わると部屋へ戻り、熱いシャワー を浴びて油をおとし、1時間くらいゆっくりベッドで横になって休む。こうして1日目の治療は終わった。夕方にはチャイを飲みながらドクター達とおしゃべりを楽しむ。食事は全てこの土地で出来た無農薬の食材で作るので素朴な味だがとてもおいしい。畑と牛を管理しているのはパンドウという農夫の一家。敷地内に住む彼らの飾らない日常生活を見せてもらうのも、普通のツアーではできない貴重な体験であった。

本格的な治療は食事をきちんとコントロールしながらやらなければならない。ワゴリでは新鮮な食材の菜食料理

パンチャカルマは、体に大きな負担になるので、施術者の注意深い観察が必要

2日目からはマッサージのオイルがゴマ油からサハチャルオイルに変えられた。バステイも煎じ液ではなくてオイルによる浣腸。煎じ液のバステイと違うのは、お腹がふさがっている時にやらなければならないので、スベダナの後にラルーという香ばしいダンゴを食べさせられる。このダンゴは一個で朝食になる程ボリュームがあり、おいしいので実は楽しみでもあった。3日目以降は煎じ液と油のバステイが一日おきに繰り返され、何回、何時ごろ排泄があったかを翌朝の診察の時に報告する。主治医のジョテイはその報告と細かい観察から少しづつ治療の方法を変えていた。例えば、960cc入れなければいけない煎じ液のバステイだが、3日目は400ccしか入れていない。私の顔に疲れがみえたから400ccでやめたという。本人としてはそれほど疲れてないように思えたが、ジョテイは注意深く観察していたようだ。パンチャカルマは、体に大きな負担になるので、施術者の注意深い観察が必要だと言う。観察というものがいかに大切か、ドクターサダナンダは度々説いてくれた。

治療に使うオイルは、出来る限り医師達が自分で作る。品質が確かな材料だけを揃えるため効果は確実だ。

こうして4日ほど続けると、私は期待とは逆に、ちょっとお腹がはるような、重たいような感じがしてきた。少し不安だったが、上馬場先生の本に、浣腸の副作用として腸の働きがにぶくなることがあると書いてあったのを思いだして安心する。しかし5日目、全く予想もしない変化が現れた。

カボチャプリンが出た!

5日目は煎じ液のバステイの日だったが、なぜか、肛門がとても敏感になっていて、200ccいれただけで、もう我慢ができずにストップをかけてトイレへ走った。フンがでた。次に500ccでまたストップ。今度は、いれただけの煎じ液がドッと出てきたが、固形物はもうない。腹の中はすっかりカラになった、と思ったがジョテイはもう一度バステイをするという。いつになく強硬なので、しかたなく再び台に上がった。すると今度は100ccでも我慢ができない。ストップ!と叫ぶとジョテイがインド式おまるを差し出した。チリトリの上に瓢箪型の穴のあいた蓋をしてあるようなもので、どっちが前かまるでわからない。

ネートラタルパナ 緑内障など目の治療法。穀物の粉で土手を作り、薬用ギーを満たして眼に浸透させる。

ままよ!とお尻の下にさしこんで用を足した。

もちろん、いれた煎じ液しか出ないだろうと思っていたのだが、出てきたものをみて驚いた。 フンではないものが出ていたのだ。艶やかできれいな光沢があり、鮮やかな黄色い代物だ。 揺らしてみるとプリンのような弾力があり、色といい、形といい、カボチャプリンにソックリだ。 これはフンなのだろうか?それにしては食べ物のカスが一切ふくまれていない、なめらかだ…。 しばらくは放心したようにジッと眺めていたが、それ以上、観察するだけの気力もなく、トイレに捨てて部屋に戻った。

脱力感が激しく、シャワー を浴びるのもやっとの思いでベッドに倒れ込む。ところが、1時間ほどすると、自分の体が妙に軽くなっているのに気がついた!起き上がってみると、あんなに痛かった腰が全然痛くない!体全体が、羽がはえたように軽いではないか。特に腰の存在感がまるでない。今まで痛みがあったから、腰がアルということを意識していたのに、その痛みが消え去り、何か喪失感にも似たスースーした頼りない感じが腰をすりぬけていく。私は中学の時に腰椎を骨折しているので、腰痛は歪んだ骨と体が重いための物理的な原因だと思ってきた。しかしその腰の重みや痛みがウソのように消えているのだ。うれしさに小躍りした。体の中が本当に爽やかで、走っても息切れがしない。この数日後、大学の階段を4階まで一気に駆け上がったが、ナント動悸も息切れも全くしないのには自分でも呆れてしまった。腰痛も動悸も、全ては太っているからではなく、アーマが溜まっていたから起きていたのだ。

ラクタモクシャナ 寫血法には色々な方法があるが、これは蛭を使っている。頑固な皮膚病にも効果がある。

レーパ 薬草のペーストを塗布して根深い肩こりの治療をしているところ。

久しぶりの生理が!しかも、生理痛がまったくない。

そしてこの夜、私は突然、生理になった。8月にして迎える今年2回目の生理。だが生理痛が全くない。正常な生理というのは、痛みが無いものだということを初めて知った。ただ体から下向きに何かが出ていく、力強い流れを感じるだけで、痛みも重みも感じない。

とにかく、生理がはじまってしまったため、この日で私の治療は終了した。本来ならば7日間のコースだった。結果としては5日目で効果が出たので、冗談まじりでドクターに、日本人は忙しいから4日くらいでやれないのかと聞いたら「一生の健康のために たった7日間をさくこともできないのか?日本人は?」と哀しそうな顔をされてしまった。

ワゴリの土地は大半が岩だ。水晶のような鉱物や、石英質の菊花のような模様がちりばめられている。

現在、治療からちょうど3ヵ月が過ぎた。あんなに軽かった体にも少しづつ薄紙がつくように重さが戻ってきたが、生理を迎えると、こうした薄紙が一遍に流れ出てまた体が軽くなる感じが戻ってくる。ホルモン剤を飲んでも効果のなかった生理不順が、この3ヵ月は毎月来ている。こうして生理が順調にいくと、だんだん腫れ?もひいていくのかもしれないが残念ながら、今現在、体重に増減はない。しかし35度台だった基礎体温が、今は36度を切る日はめったにないくらい上がった。たった5日間治療をしたくらいで、なぜこんなにも体が変わったのだろうと思うくらいだ。

私が手にいれた一番の宝物は心の平安

しかしながら、体のことだけでなく、私が手にいれた一番の宝物は心の平安だ。あの黄色いカボチャプリンが出て以来、あまり怒らなくなった。下腹と背中のちょうど真ん中あたりに澄んだ水たまりが出来たような感じで、心が平穏でいられる。インドに行った時には、入国審査のあまりの要領の悪さにムカムカしたが、出国の時は飛行機の時間が目前に迫っていたにもかかわらず,イライラせずに、待つ気持ちになった。すると、係官がすぐに気づいて優先してくれたりと、自然に道が開けるようになったのであまりムダがなくなった。ムダをしないのでイライラしない。カチンと来ることはいまだに多いが、その後の、腹の底から突き上げてくるようなムカムカを感じなくなったのが何よりもうれしい。

草一本にも命があり、私たちはそれを食し、その力を薬にして癒される。

アーユルベーダは医学でもあるが、よりよく人生を生きるための知恵そのもの

今,私はこの素晴らしさを一人でも多くの方に体験していただきたくて、ドクターに定期的に日本へきて脈による健康カウンセリングをしてほしいとお願いし、来日のための非営利のサポート団体を作った。10月に再来日された時には60人近くの方がドクターのカウンセリングを受けたが、そのケースペーパーの9割に肝臓のダメージを示すマークが記されていた。休養をきちんととることを忘れてしまった私達日本人は、インドに比べると、怒り、不安、恐怖、イライラなどの感情をためこみ、肝臓を害することが多いようだ。かくいう私にも、ドクター は「君は大きなストレスを抱えている」と言った。まさか!今では会社もやめてイヤな仕事もなく、アーユルベーダをどうやってもっと広めようか、もっと勉強しようかと、そればかり夜も昼も考えているのに…!。しかしドクターは静かにこういった「聞きなさい。あなたは神様ではない。人間は一度に1つのことしかできないのだ。なのに、君は3つも4つもプランを抱えて、徹夜で働きまわっている。それがストレスなのだよ。夜は眠るべき時間、それが原則だ。夜は夜なのだから昼のかわりは出来ないのだよ。君は自然に逆らって生きている。自然に逆らわず生きなさい。そうすれば、今の2倍、3倍の仕事ができるようになる。」

この石の下に創始者であるマハラジが眠っている。誰でも礼拝することが出来る聖地だ。

ああ、また私は原則を忘れていた。こうして自然の前に敬虔になることを忘れることから病気になるのだ、と改めて思い知らされた。アーユルベーダは医学でもあるが、よりよく人生を生きるための知恵そのものなのだと、改めて思った経験であった。