二子玉川の駅前には、スケートリンクがあります。
スケート靴で立つのがやっとで、たどたどしく滑る子供たちの群の中で、一人だけ、体を低く沈めて手を後ろに組み、体重移動だけですごいスピードで、しかし誰にもぶつかることなく、狭いリンクを滑らかに滑りまくっている男性がいました。
よく見ると老人。しかも、かなりのお年のようです。
「お見事ですね!」と、話しかけてみると、嬉しそうに大きな声で「88歳!」と、誇らしげに言われました。30年前はシニアのアイスホッケーの選手として世界選手権を戦われたのだそうです。「いくつまで滑れるかな」と弱気な発言をしつつも、全然そんな心配は必要ないほどの闘志が伝わってきます。
夜になって、テレビで内海桂子師匠を見ました。「あたしゃね、今年で96歳!」と、いうと横からすかさず弟子が「師匠、それは来年ですからね」と、茶々を入れて笑いを取ります。でも、いじられているだけでなく、「鳴鳥銘木なんの木に止まる?」という軽口問答を問いかけて、若い弟子たちとキャッチボールを楽しく演じて見せました。そして三味線を弾きつつ都々逸を歌い、喝采を浴びています。
懐かしいなあ…昔はよくお正月になると、都家かつ江、玉川スミとか、女芸人さんたちが日本髪を結って三味線漫談で客席を沸かせていたっけ….
立つのもやっとで、少しボケは入っているものの、ネタは全く淀むことなく、間合いよくやってのけます。
『銘鳥銘木、木に鳥止めた』『何の木に止めた?』『松の木に止めた』『何鳥止めた?』『鶴鳥とんがらかして、それそっちわたした』『受け取りかしこまってなかなか持ってガッテン!』…
見ているうちに、なんだかジーンと涙が出てきました。懐かしいのもあるし、もうすぐこういう芸が見られなくなるだろう寂しさもあるのですけど、…そういったことを超えて、なんだか、すごい…。この人の人生のエッセンスのようなものが光っています。どんなにボケても、絶対に芸だけは忘れない「死んでも舞台を降りるもんか!」という気迫。
実は桂子師匠はツイッターもやっています。あのお年でスマホをいじってご自分で投稿しているとは思えないので、24歳年下のご主人様か操作してくださっているのでしょうけれど、その内容は、彼女にしかつぶやけないことばかりですから、ご自身で、毎日、日課として続けていらっしゃるに違いありません。1日も欠かしていないので、すごい負けず嫌いだなあとわかります。
しかも、これがなかなか面白い。テレビ番組を見た感想とか、芸人仲間のこととか、NHKの悪口とか。笑 なかなかの見識。そして、戦争を体験した世代でなければわからない時代の読み方などなど….。フォロワー数が40万人を超えているのもうなづけます。
88歳のスケーターと、桂子師匠、どちらにも共通しているのは、諦めない気持ちと、好きなことへの情熱、そして軽い運動かもしれません。80を超えても舞台で「かっぽれ」を踊っていた桂子師匠。ほどほどの運動は感覚器官を養うためにも必要です。
しかし、激しい運動は逆効果です。アシュタンガフリダヤサンヒターの中には、運動は全力の半分までにしろと書かれています。かっぽれを踊る程度がちょうどいいのでしょうね。