南方熊楠展 竹塩のひみつ

熊楠のデスマスクからわかること

国立科学博物館で行われている南方熊楠展へ行ってきました。

智の巨人と言われる明治時代の天才。

展示の中で研究者の方が「粘菌でもキノコでも、昔話でも、とにかく何でも集めて、まるで子供のように、どうだ!すごいだろうっ!と自慢してしまうという無邪気な人です。」と、話していましたが、実に風変わりな、面白いパーソナリティだったようです。

その横顔を、ちょっとアーユルヴェーダ的に観察してみましょう。…って、ハイ、文字通りの横顔。デスマスクです。笑

大きく突き出た半球状のおでこ。

これは典型的なカパ体質の人の特徴です。がっしりした体や、とにかく何でも集めまくる習性、じっと一つのものに向き合うことができる根気。強い記憶力などは、いかにもという感じですが、論文に未完のものや話題の飛躍が多く、奇行が多いことでも知られており、こういう点はカパらしくはありませんね。展示会では触れられていませんでしたが、脳の疾患もあったようで、プラクリティよりも、天才性や奇行などは、この病気による影響の方が大きかったようです。

高く通った鼻筋、眼光の鋭さや、整った目鼻立ちは、強いピッタの素養を表しています。彼が、学問と収集を始めたきっかけを読むと、それがよく分かります。

「小生は元来はなはだしき癇癪持ちにて、狂人になることを人々患えたり。自分このことに気がつき、他人が病質を治せんとて種々遊戯に身をいるるもつまらず、宜しく、遊戯同様の面白い学問より始むべしと思い、博物標本を自ら集めることにかかれり。これはなかなか面白く、また癇癪など少しも起こさば、解剖等微細の研究は一つも成らず、この方法にて癇癪をおさうるに慣れて、今日まで狂人にならざりし。」

しかし、この収集にかける情熱というか、勢いが、尋常ではないのです。ものすごい勢いで書き飛ばし、細かいノートの隅々までぎっしりと大事なことを抜き書きしています。この字が小さすぎて研究者泣かせ!笑。翻刻(自筆文字の解読)なんて言葉があることをこの展示会で初めて知りました。

そして、まるで現代のマインドマップのように、ネタを繋いで、ぎっしり尻尾まであんこが詰まったたい焼きのような原稿を,次々と仕上げては学術誌に送りつけるのです。

変態性欲からアーユルヴェーダまで

その守備範囲の広さたるや、植物学、生物学はいうに及ばず、星座からセクソロジーまで、多種多様。学術誌の最高峰「ネイチャー」に、ほぼ毎月のように原稿を送り、記録を打ち立てる傍らで、こんな雑誌にまで投稿して、大真面目に、キッスの研究などという論文も書いているのです。まさに紙一重…。

こちらは熊楠が天皇陛下に植物標本を差し上げたときの、森永キャラメルの箱。桐の箱に入れるとか、そんなことは全然大事じゃないのです。 彼にとっては、中身が大切!

こうした多くの収集品の中には、アーユルヴェーダに関するものもありました!

アーユルヴェーダの竹塩

明治28年、ロンドンに滞在した熊楠は大英博物館で東洋関連の文献整理の仕事をする傍らで、大英博物館に通いました。9言語の図書から抜粋した「ロンドン抜書き」という資料集を作りましたが、その表紙には、インドの医薬品に関する抜書きがありました!

ふふふ、いーもんメーっけた!^^)v

現物の書き込みは細かくて読めませんが、展示の解説によるとタバーシアという、竹から出た分泌物について、抜書きを作っていたようです。

ん?タバーシア?聞いたことないなあ….

確かに、アーユルヴェーダでは竹から出た分泌物を使います。竹瀝とか竹塩などと訳されますが、竹につめて焼いた塩というものではありません。透明ないしは乳白色の液体を結晶させて固めたもので、普通はヴァンシャローチャナと呼ばれるものです。タバーシアなんて名前は聞いたことがありません。

しかし、アーユルヴェーダの生薬にはとてもたくさんの別名があるのです。家に帰ると即、ヴァンシャローチャナを調べて見ました。すると、ありました、ありました!タバーシアという呼び方が!

主に、ユナニというアラビア医学経由で入ってきた処方の場合に、この呼び方をするようです。ホホお〜〜!すると、熊楠が使っていた資料はインド医学というよりも、アラブ医学由来のものだったのかしらん?

しかし、よくよく調べて見ると、タバーシアと、ヴァンシャローチャナは厳密には違うもののようですし、熊楠の資料の中には天竹黄という言葉も出ていました。

これは、竹に蜂が穴を開ける時にできた傷から出た液体が固まったものらしく、アーユルヴェーダの竹塩よりも、さらに手が混んでいます。一体どんな蜂がそんなことをするのか…..と、いった具合に迷宮に迷い混んで出て来られなくなりました。

こうやって、どんどん広がっていく興味をひたすら検索し続けていったのが熊楠の生涯でした。

今なら確実にグーグルの虜になっていたに違いありません。笑

 

ちなみに、ヴァンシャローチャナは痰を溶かして楽にしてくれる生薬で、呼吸器系の薬に使います。私の師匠がよく使う、シトーパラディという薬の主成分でもあります。

前から不思議なものだと思っていましたが、ヴァンシャローチャナを作っているところへ行って、いつか実際に、作り方を見て見たいものです。百聞は一見にしかずですからね!